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Beauty Source キレイの魔法

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クレア1846『エトワール』

クレア1846

『エトワール』

あの方は私を椅子に座らせ、部屋の中央に悠然と進み片手を挙げる。
パチンと小さく指音がしたかと思うと、シガーが一本、宙から現われた。
室内をゆっくり旋廻し、私の顔の前で止まったうす緑色の細長い物体に、
ひとりでに火が灯り、ゆらゆらと細い煙が立ち上ぼる。
見えない手がそれをあの方の口もとへ運ぶと至福の表情。
灯りが強くなるたびに、周囲がだんだんとスモークに包まれてゆく。

「忍びやかに ひっそりと 
 夜は その煌めきを 解き放つ
 捉えて 味わい尽くすのだ
 精妙で やさしい その煌めきを」

私はデッサンを見ている。
あの方の描いたオペラ座のエトワールを。
稽古場で熱心に舞っている彼女の、全身に浮かんだしずくが、玉響となって飛散する瞬景。
そのひとつひとつが、無数の踊り子たちとなり、エトワールの回りを舞い始める。
いつしかその一人に立ち交じり、中心にいる彼女に軽く触れると
今度は私が舞台の中心にいた。

まばゆい光を浴び、豪華な衣装をまとってステップを踏み出す。
差し伸べた手は、万来の観客の心をつかみ、
傾けた視線は、その魂を射抜く。
周囲の踊り子たちは、可憐な星屑で
中央の私は、燦然と孤高を保つ太陽。

最後のターンに酔いしれた観客から投げ入れられる、色とりどりの薔薇の花。
好みのものだけが踊り子たちによってより分けられ、
カーテンコールに応える今宵の勝利を手にしたプリマドンナの腕に。

自分の花を手にしてもらえた者が喜悦にひたり、
そうでない者たちはすぐさまその花で楽屋を埋めるように手配する。
むせかえる芳香。
首まで積み上げられた贈り物の山。
ファンが雪崩をうって私に群がり、そして言う。

「歌って 歌ってください プリマドンナ」

歌う?それは無理だわ。
私は舞うことしかできないの。

「あの方は それをお望みです。」

あの方が望んでいらっしゃる?
私はあたりを見回し、あの方の姿を探す。
仮面をつけた人々が次々に現われては
「あちらへ あちらへ」
再びスモークの帳が下り、聴こえてきたしわがれた声。

「お前の望むものを。
 栄光か 美しさか 若さか。」
「歌の才能を。美しい声を。」
「よろしい。代価には何を?」
「何でも。ここに山とある贈り物、全て差し上げますわ。」
「そんなものはいらぬ。
 お前が本当に持っているもの その足をもらおう。」
「できませんわ。」
「何故できぬ?
 何かを得るには何かを失う。
 あの者を見てもわかるじゃろう。」
  
これは復讐なのか、恩恵なのか。
再び仮面が近づき、私に迫る。

歌っておくれ 私のために。
歌えないのです。
歌え、エンジェル。
踊ることしかできないのです。
歌うのだ 私の・・・。

あの方は天使をお望み。
美しく、あの方にふさわしい声で歌う音楽の天使を。


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